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仕事柄、毎日のように色々な人と会った。
ほとんどが大人。ほとんどが臣下。ほとんどが空っぽの人形。
やつらは僕を見る時、だいたいがまず視線を落とす。そして、決まっていつも少しどこか不安そうな顔をする。まあ、もちろんそんな心の内を読まれてしまっては大変なわけで、すぐに嘘くさい笑顔でとりつくろうのだけれど、やれやれ残念。こっちも顔色を伺うことには慣れてるんでね。
僕が座るのはひどく冷たく、硬くてたまらない、大きすぎる王座。
頭の上には重くて肩がこるだけの金の王冠。
肩には血のように赤いローブ、足元の絨毯もその色が流れ出たかのように赤かった。
僕はこの国の十六代目の王。一国の主。
数年前、父と母が病に倒れ、そのまま帰らぬ人となった。それはもうあっけないほど、笑いたくなるくらい、簡単に。ろくな思い出も、家族のぬくもりなんてものも何一つ残すことなく。ただこの灰色の国だけを僕に託して。
最初は何もわかっていなかった。僕が手にしたものが一体”何”なのか。この王座が、ローブが、冠が、王という名の称号が、果たしてどのような意味を持つものなのか……。何もわかっていなかった。
けれど案ずることはない、国民諸君。その時はすぐに訪れる。
僕が一つ間違えば、百が死ぬ。僕が十諦めれば、千が散る。まるで何かのゲームのようで、僕は今日も惨めな敗者にならないように、盤に向かって駒を動かす。牢獄のように白い壁に囲まれて、毒々しい赤を踏みつけて、まるで実感のない数字のオセロ、実にリアルなチェスゲーム。
果敢なナイトは飛び跳ねすぎて着地に失敗、頭のお固いビショップは背後の敵にまるで気づかず、腰の重たいルークは一度も動くことなく捕らえられ、気の強いクイーンは未だ一度も会いに来ない。無数のポーンは最も親愛なる僕の捨て駒。
全てはこの国というボードの上で起こる赤と白の慈悲なき遊戯。
一人倒れて、また一人。一人消えさり、次は誰? |
「さあ、君の番だ。お次は一体どんな手で?」
最後に残るのは――、さあ、誰になるのやら。 |
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