――窓の外を見た。

 あの壁がある。
 あの町は今は見えないけれど、あの黒い境界線の向こう側には、
忘れられた忘れられない町が広がっているのだろう。

 その名の通り、僕が忘れれば、またそれはすぐに消えてなくなる。閉ざされた門には、閉ざされている理由がある。 それが一番楽な方法で、だからこそこの地は楽園であることができた。人が何もせず、何の代償もなく、ただ享楽に溺れて生きていくことなどできるわけがないんだ。でもそれを全て誰かに押し付けて、そして押し付けたことさえ仮面で目を覆って忘れてしまえば、罪悪感も背徳感も持たずに生きていけるんだ。そうやって僕らは生きてきたんだ。それを許したのがこの都市で、国で、王で――僕だ。

 王立アルケディア、王立理想郷。忘れてはならないことを忘れた禁断の地。


 けれど、あの人たちの主は誰だ? あの町の、あの国の王は、誰?

 空っぽなはずなのに、彼らは決して消えない。
 空っぽなはずなのに、僕らはまだここにいる。

 僕はこの国の王。僕は彼らの王。
 ここは僕の王国。

 最後に残るのは、僕。



 けれどそこからまた、全てが――始まる。