王子様には許婚が八人もいた。私はその中の一人、八分の一。
大体の子が王子様と同じ歳だったのに対して、私は一人だけ年上だった。王子様がお生まれになったのは、私が六歳の時。生まれた瞬間からの許婚。
まあでも……きっと自分ではないだろうと思っていた。家柄的に言えば決して誰にも劣らないけれど、対面を気にする王家が年上の花嫁を好むわけがない。それは私だけでなく、次期女王候補八人全員の見解で、おかげで火花が散り火の粉が舞う女達の争いから、少し離れた場所にいることができた。
それがまさか、こんなことになろうとは……。
初めて直接お会いしたのは、王となるための戴冠式。八人の許婚の中の一人として。誰もが着飾って、こぞって祝いの言葉を投げかける中、私はただぼんやりとその少年を見上げていた。
これが我らの王なのか――?形は子供でも、無邪気さの欠片もない。
ほとんど動かない表情、冷たい色の瞳。王冠を冠り、王座に座った、ひどく美しい人形のようだった。
そして次の日、赤い絨毯の上から他の七人は全て消え、私だけが残った。
「これは……」
答えを待つ必要はない。八分の一の確立、私が選ばれた。選ばれたのは私。この少年に選ばれたのは、私。
……まったく、驚くべき感情だわ。この私が、はしゃいでいる。優越感、もちろんそれもある。安心感、これで我が家の将来は約束された。けれどそれ以上に嬉しいのは、私の胸をときめかせるのは―― |
「選ばれたのはおまえか」 |
|
まだまだ幼い声。けれどその物言いはいやに大人びていた。 |
|
「顔は覚えた。用がある時は呼ぶ。下がれ」 |
|
何のためらいもない言葉。そう、全てはあの時から始まった。
プライドも女心も全て粉々にして、ご丁寧のその破片さえも踏み潰していく。殺したいほど憎らしい、私のフィアンセ。けれどそれ以上に憎いのは、それでも会えるたびに高鳴る、私の鼓動。
世界で一番憎い人。世界で一番愛しい人。
だから私、あなたが来てくださるまでは絶対に会いに行かないの。あなたが私を選んだのだから、あなたが私を変えたのだから、あなたの方からいらっしゃい。それが道理ってものでしょう?
世界で一番恋しい人。世界で一番嫌いな人。
もう少しだけこの舞台の上にいてあげる。だから早く、いらっしゃい。 |