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私はこの町で育った。
ずっと貧しい暮らしは変わらないわ。むしろこの町には貧しくない暮らしをしている人なんていないもの。今日食べるものがあって、眠るところがあって、お父さんと弟と妹が傍に変わらずいて。一日を無事生きられるだけで、私は幸せ。
王様を、……あの壁の向こう側にいる人たちを、恨んだことがないと言えば嘘になる。あの向こう側では、やわらかいパンも、きれいなお水もたくさんあって、誰も飢えることはないのですって。暖かい毛布も、壊れていないランタンも皆持っていて、誰も夜に怯えることはないのですって。
……でも、知ってるの。いくら羨んでみても、いくら叫んでみても、あの門が開くことなどないの。応えてくれないものにすがっていても、何の意味もないでしょう?
私も、母さんが死んでしまったころは、泣くか祈るかしかできなかった。家に閉じこもって、あの壁を恨むことしかできなかった。けれど、それでは何も変わらないわ。私は、私のできることをするの。それが私の幸せなの。
皆で力をあわせて、小さな病院を作った。私はお手伝いしかできないけれど、お父さんに教わって簡単な薬の調合くらいまではできるようになった。
お金もないし、設備もないし、本当に大したことは何もできない。……、飢えに己を見失った町の皆に、家ごと壊されてしまったことも何度か、ある。それでもお父さんはがんばって、なんとか正規の病院として認めてもらえて、ほんの少しの給金と食料の配給は出るようになったけれど、3日もすればすぐになくなってしまうほどの額。
……けれど私は諦めない。私がこうしてこの町に、この国に生まれたことも、こうしてここにいることも、全ては誰かが決めたこと。それならば必ず何か意味があるはずだもの。それが何なのか見つけるまでは私は死なない、決して諦めない。
「ありがとう、楽になったよ」
そう言って、ぼろぼろになった手で、私の手を握ってくれる近所のおばあちゃん。その一言がとても嬉しい。こんな私が誰かの役に立てるのなら、これ以上嬉しいことがあるかしら。そう、私は幸せ。幸せよ。
……けれどたまに泣きたくなる時がある。
その乾いた手の感触に、しわしわの肌を通して伝わる確かな温もりに、涙が零れる。
壁の向こう側にいるあなた。我らが主、本当にあなたには私たちの声は聞こえないのでしょうか。私の声は、届かないのでしょうか。
それでもあなたは、私たちに残された唯一の―― 諦められない、希望なのです。
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